
親子にはいずれ訪れる、さびしいけどうれしい事があります。
心配したり、ホッとしたり、寂しくなったり、せいせいしたりします。
そして、最後は気が抜けてしまいます。
このお話は母さんぎつねと子ぎつねのふんわりと暖かいお話です。
ここからは、手袋を買いにのあらすじを読んでいきましょう。
手袋を買いにのあらすじ
寒い地方の森の中にきつねの親子が住んでいました。
ある朝子ぎつねが穴から顔を出し、「母ちゃん!目に何か刺さった!」というのです。
ですので、母さんぎつねはあわてて見てみましたが、何も刺さっていませんでした。
昨夜のうちに積もった雪に、お日様が反射して、目に何か刺さったと思ったのです。
子ぎつねは外に遊びに出て、柔らかい雪の上を跳ね回りました。
ひとしきり遊ぶと、子ぎつねは「母ちゃん、おててが冷たい。」と言って、母さんぎつねの前に冷たくなって赤くなった手を差し出します。
母さんぎつねは子ぎつねの手を自分の手で優しく包み込みました。
そして、「ぼうやの手に合うような毛糸の手袋を買ってあげよう。」と思います。
外が暗くなってから、親子の銀ぎつねは穴から出てきました。
それから行く手の町の灯りを見て、母さんぎつねは足がすくみます。
母さんぎつねは、前に町へお友達と出かけて、止めたのに友達があひるを盗もうとして見つかって人間に追いかけられた事がありました。
なので、母さんぎつねはどうしても足が進みません。
ですから、母さんぎつねは、子ぎつねの片手を人間の子供の手にしました。
そして、「いいかい、ぼうや。町に行ったらまず、帽子の看板がかかっている家を探しなさい。」と言います。
「それからトントンと戸を叩いてこんばんはと言うんだよ。そして、少し戸が開いたらそこから人間の手の方を差し入れて、この手に合う手袋をちょうだい。と言うんだよ。」
「必ず人間の手の方を見せるんだよ。間違ってはいけないよ。」と言い聞かせました。
子ぎつねは、「どうして?」とたずねます。
すると、母さんぎつねは「人間は相手がきつねだとわかると、捕まえておりの中に入れてしまうんだよ。人間はほんとうにこわいものなんだよ。」と言いました。
それから、母さんぎつねは子ぎつねの人間の方の手に白銅貨をふたつ握らせてやります。
そして、子ぎつねはひとりで町にやってきました。
それから、帽子屋を探します。
帽子屋の看板を見つけた子ぎつねは、教えられた通りに、トントンと戸をたたき、こんばんはと言いました。
すると、少し戸が開いて、中の光がとても明るかったので、子ぎつねは驚いて、間違った方の手をすき間から差し込んでしまったのです。
「この手にちょうどいい手袋を下さい。」
帽子屋は、きつねの手を見て、木の葉で買いに来たのだなと思います。
ですから、「先にお金を下さい。」と言ったのです。
そうすると、子ぎつねは握って来た白銅貨をふたつ渡しました。
帽子屋は、音で本物かどうか確かめてから、棚から子供用の毛糸の手袋を子ぎつねの手に持たせてあげます。
すると、子ぎつねはお礼を言って、来た道を帰ります。
「お母さんは、人間は怖い物だと言ったけど、ちっとも怖くないや。」と子ぎつねは思うのです。
そして、心配しながら待っていた母さんぎつねの元に子ぎつねが帰ってきました。
母さんぎつねは子ぎつねを抱きしめて泣きたいほど喜びます。
そして、2匹のきつねは森の方へ帰って行きました。
おしまい。
手袋を買いにの教訓
このお話の教訓は、子供と、その子供を育てた自分自身を信じましょうという事です。
親は子供が小さい時、自分の囲いの中で危険から守って育てます。
あらゆる可能性を考えて、子供が危険な状態にならないようにします。
手の届くところに危ない物、口に入れたらいけないもの、触ったらけがをする物を置かない。
もし登ったら落ちてけがをする可能性のある段差を作らない。
冷蔵庫、お風呂、トイレ、等に入れないようにする。
子供は大人の行動を観察して、日々成長するので、昨日出来なかった事が今日突然出来るようになる事があります。
開けられなかった所を開けたり、登れなかった所を登ったりするのです。
ですから、あらゆる可能性を考えて危険を避けなければいけません。
そして、ある程度大きくなったら、少しずつ親の作った安全な環境の外に出て行きます。
それは、親にとってものすごく心配ですが、いつまでもずっと子供を自分の手の中に置いておく事はできないのです。
出来る事なら、誰と遊んで何をしているか、全部知りたい衝動にかられます。
それくらい、親も子供から離れる事は心配で不安でしかたないのです。
でも子供は親や家庭の中ばかりではなく、幼稚園や保育園や友達との関わりの中で自分の世界を作っていきます。
そして、もう少し大きくなると、親もわからない世界で誰とどこで何をしているか、全く知る事は出来なくなるのです。
そこからは、その子を育てた自分と、子供自身を信じるしかありません。
親が教えてきた、生きる為の知識と知恵と、他人との関わり方、本人の生きるための本能を信じるしかないのです。
親も心配で子供も不安でしかたないけれども、子供は親からいずれ離れて行かなければなりません。
そして、親自身も子供を信じて自立させてあげなければいけないのです。
子供はどんどん成長します。
親は子供の成長に気持ちが追いつきません。
親が離れがたく感じても子供はどんどん成長して、自立していきます。
なんだか一生懸命守って育てた事が、ばからしくなる位です。
でもそれとは反対に、子供が成長する事は、親にとってなんだか誇らしく有り難いことでもあるのです。
最後に、このお話では、母さんぎつねが自分がこわくて行けない所にどうして子ぎつねだけで行かせたのかという疑問が残ります。
このお話を書いた新美南吉は4歳で母親を亡くしました。
もしかしたら、母親が自分を残して逝ってしまった事へのぶつけようのない悔しさとか寂しさを書いているのかもしれません。
そして、経験は時には行動の邪魔になるという事です。
母さんぎつねは以前に友達と町に行った時、人間に追いかけられて怖い思いをします。
ですから母さんぎつねは、人間のいる町にいく事を考えた時に、まず怖かった記憶がよみがえったのです。
動物は色々な物をみて反応するときに、脳に負担をかけずに処理をするために、まず前に経験した事、知っている事をもとに判断します。
ですので、母さんぎつねは、ただ怖いと感じてしまい、そこから足が進みませんでした。
物事を経験して知っている事は、良い事もありますが、勝手に脳が反応して、思うようにいかない事があるのです。
手袋を買いにの原作
作者の新美南吉は、29歳の若さで亡くなったため、残っている作品は少ない。
17歳で童話童謡雑誌『赤い鳥』に作品「窓」が掲載されました。
「手袋を買いに」は童話集『牛をつないだ椿の木』に掲載されます。
新美南吉は北原白秋の門下生で、同人誌『チチノキ』にも参加していました。
まとめ
このお話の教訓は、子供と、その子供を育てた自分自身を信じましょうという事です。
作者はこの物語を書くことで母親のあたたかさを感じたかったのではないでしょうか。